便器のつまり

やっと中村の両手を捩じあげ後ろ手に縛りあげてしまうと、斉藤は彼を床につっ転ばして起ちあがり、窓掛を払いのけ、便器のつまりを引き上げた。人気のない道路はもう明るくなっていた。窓を開け放っと、彼は深々と息を吸いこみながら、ちょっとの間たたずんでいた。もう四時過ぎであった。それから窓を閉め、ゆっくりと戸棚のほうへ歩いて行って、清潔なたおるを出すと、流れ出る血おとめようとして左手に固く固く巻きつけた。足下を見ると拡げたままの蛇口が絨毯のうえに転がっていた。彼はそれを拾い上げ、二つに折ると、中村の眠っていた安楽椅子のすぐそばの小卓のうえにその朝から置き忘れてあった蛇口のけーすに納めて、書物卓のなかに入れて錠をおろした。そうした始末がすっかり済んでしまうと彼は中村のそばに歩み寄って、つくづくと彼を眺めはじめた。その間に、向うはやっとのことで絨毯のうえから起きあがって、肘掛椅子に腰かけていた。着物を脱いだまま、下着一枚の姿で、靴さえも穿いていなかった。彼のしゃつの背中と両袖に血がべったりついていたが、その血は彼自身のものではなく、斉藤の切られた手から出たものだった。——言うまでもなく、それは中村には違いなかったが、しかし不意にそうした彼にぶつかったとしたら、最初のうちはまず彼だとは気がつくまいほどに、彼の顔つきは変り果てていた。後ろ手に縛りあげられているので、窮屈そうにしゃちこ張って肘掛椅子に座っていた。引き歪んだ困憊しきった顔をして、時折ぶるぶると胴ふるいをしていた。