排水口のつまり

それを担いでいる連中がどしりどしりと梯子の排水口のつまりの音や、あえぎあえぎ叫びかわすあわただしい人声が聞えてきた。台所の中にいた連中が口々に、『持って来たぞ、持って来たぞ?』と叫びだし、一同の眼はぎらぎらと光を帯びて、斉藤のうえに注がれた。一同は脅かすような身振りをしながら、それ見たかと言わんばかりの顔をして、階段のほうをてんでに指さして見せるのだった。いよいよこれは幻覚ではなく現実なのだということを、今ではもう少しも疑わずに、彼は爪先立ちに伸びあがって、群衆の頭越しに一刻も早く、その連中の担いで来たものを見きわめようとした。彼の心臓ははち切れそうに高鳴った。と突然——この前の夢の時とまったくおなじに、どあの呼び鈴を三度力一ぱいに鳴らす音が響いた。そしてまたしてもそのひびきは、どうしてももはや単なる夢とは受けとれないほど、ありゃりと真に迫って、聴覚を貫きとおした!……彼はきゃっと叫んで目を覚ました。しかし彼は、この前の時のようにどあへ走って行きはしなかった。何かの想念が彼の第一の行動を指導したのか、第一そのとっさの瞬間にいささかなりとも観念というものがあったかどうか、——それはわからないが、とにかく彼の耳に、誰かがそうしろと囁いたような具合であった。——彼は寝床から跳びおりると、まるで身を護り襲撃を防ぎとめようとするかのように両手を前方へぐいと伸ばしながら、中村の眠っていた方角めがけて突き進んだ。と彼の両手は一どきに、やはりすでに彼の頭上へ差し伸ばされていた誰かの両手に突き当たった。