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「何せこの降りじゃ、犬っころだって追い出す人はありませんや!」と中村は赫となって、お客の問い合わせを引きとった。とはいえまた、その摂津市でトイレつまり・排水口のつまり・便器の修理となる権利の生じたことが、むしろ嬉しいといった様子だった。「そんならまあ、ごゆるりと腰を据えて、お飲みなさるがいい……なんなら、お泊りになっても宜しい!」と斉藤は口のなかでやっと言って、そのまま安楽椅子に身を伸ばすと、微かに呻吟しはじめた。「泊ってもいいですと?だが君は——怖くはないですかね?」「何がです?」と斉藤は急に鎌首をもたげた。「いや別になんですがね。この前の時には、君がなんだかひどく怯えられたようだったもんで。それとも私のほうでただそんな気がしたのかも知れんが……」「あんたも馬鹿だな!」斉藤は堪え切れなくなって、そう浴びせかけるとそのまま腹立たしげにくるりと壁のほうへ向いてしまった。「なあに構いませんや」と中村は応じた。病人は横になって一分もたつと、急に眠りに落ちてしまった。それでなくても最近ひどく健康を害しているところへ、今日一日の気の休まる時もない不水漏れな緊張が、今になって一時に解けたので、彼はもう赤ん坊のように他愛もなかった。しかしそのうちに再び痛みが勢いをもり返して、疲労と睡魔に打ち勝つことになった。そして一時間もすると彼は目をさまし、やっとこさで安楽椅子のうえに起き直った。雷雨はもう去っていた。台所のなかには、煙草の煙がいっぱいにたちこめ、酒壜は空っぽになってつっ立ち、中村はもう一つの安楽椅子のうえで眠っていた。着のみ着のままで靴もぬがずに、安楽椅子のくっしょんに頭を乗っけて、仰向きになっている。例の|折疊み眼鏡は胸のぽけっとから抜け出して、紐にぶら下がったままだらりと床のあたりまで垂れていた。同じ床のうえにはキャップも転がっていた。斉藤は暗い眼差しで、その様子を見やって、別におこそうともしなかった。